岡田准一主演で今年3月に映画化される山岳小説の名作。こんなすごい小説を映像化して、果たしてどんなものが出来上がるのかとっても楽しみ。
羽生丈二という登山家が、前人未到のエベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂に挑む姿は、吉川英治の書いた宮本武蔵を思わせる。
己の目指す道をひたむきに追い求める孤高の生き様。世間に迎合せず一切の妥協を許さない。
そんな生き方は一度は憧れることはあっても、大人になり現実の社会で生きていかなければならない中で、人はみんな忘れていくものだ。
でも、そうでない人たちもたしかにいる。
羽生丈二は森田勝という実在のクライマーがモデルになっているが、彼の生き様もまた激しくすさまじい。
文字通り命を削るような山。そしてグランド・ジョラスに散った。
彼らの山を考えたら、僕なんかが山屋を名乗ることもおこがましい。
神々の山嶺は、マロリーが遭難したのは、エベレストに世界初登頂した前か後かという実際の山岳界の謎と絡めたストーリー展開も読者を惹きつける。
夢枕獏さん自身が山をやるしヒマラヤも経験した上で本作を書いてるため、登攀描写の一つ一つは技術的にもリアリティ溢れる。
そして山をやる者の胸に突き刺さる言葉の数々。
「どう考えても安全としか言いようのない場所で、雪崩も起きる。それが斜面に雪がつもれば、それがどんな斜面であっても雪崩は起き得るなどと、平気でおれたちにレクチャーする人間がいる知っている。そんなことは知っているのだ。そんなことを言うのならどこへも行けやしない。死にたくないのなら、どういう山にもゆかないという以外に方法はない。山へゆくなというのか。人は、ただ、生命をながらえるためだけに家の中にとじこもっていろというのか。」
なぜ山へゆくのだろう。読んでいる最中にずっと考えさせられる問い。そしてきっと答は出ない。
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