「外道クライマー」宮城 公博(著)


2012年、世界遺産である那智の滝登攀事件で逮捕された3名のクライマーのうちの一人、宮城公博さんによる著書。

那智の滝を登った3人の内には、ピオレドール賞も受賞した世界的なアルパインクライマー佐藤裕介さんも含まれていたことから、当時は社会的にもかなりセンセーショナルな事件となった。

ほとんどの論調が、3人を罰当たりだと非難するものだったと記憶しているし、それぞれ社会的制裁も受けた。

かく言う僕はどうだったのかと記憶を辿っていたら、山岳ポータルサイト「ヤマーン」に投稿した僕のコメントがまだ残っていた。

「あくまで個人的な意見として。信仰への配慮が必要ということ。これは法的な話じゃなくて常識の問題。法的に言えば、軽犯罪法で逮捕はやりすぎかもしれない。しかし、富士山もご神体なのに、なんで那智の滝だけ登るのが悪いのかという議論はナンセンスと思う。富士山をご神体とし、8合目以上を所有する浅間大社が、信仰上も登山を容認し社会的にも認められてるからこそ登れる話。那智の所有権は神社にないが、仮に登るなら滝への歴史的な信仰を持つ神社への配慮(事前説明)がまず必要だったと考える。」

というのが当時の僕の意見だったらしい。この事件に対する僕の考え方については、今も当時と何も変わらない。

しかし、そんな理屈は抜きにして、すげーぶっとんだクライミングするなこの人たちはと、心の中では喝采もまたしていた。

宮城さんのこの本の冒頭、那智の滝登攀の顛末が出てくるけど、下に警察がやってきたり大騒ぎになっていく中、佐藤裕介さんが尾根まで抜けて逃げようと真顔で言うシーンに思わず吹き出した。

本当にぶっ飛んでるんだなこの人たちは。まるで子供がそのまま大人になったような方々だ。

落差日本一の滝・立山の称名滝冬季初登攀、台湾のチャーカンシー初遡行、そしてこの本一番の読みどころは、タイのジャングル46日間の初遡行。

アルパインクライマーではなく、あくまでも「沢ヤ」にこだわろうとする宮城さんかっこいい。

そして読んでいて何度も吹き出した男子中学生ばりの馬鹿っぽい子供の感性。

山での実力、登攀の実績で言ったら、頻繁にメディアに登場する「登山家」たちを遥かに凌ぐ。

メディア受けする分かりやすい登山に背を向けて、本物の冒険を志向する沢ヤの実力が、この本を読むとよく分かる。なによりも、面白すぎる痛快な冒険小説みたいだ。

宮城さんは言い切る。

「第一に山を登るということは、山を登らない場合よりも死の可能性が高まるのだから、その時点で社会と反目しあう性質をかかえている。安全登山などという交通標語みたいなお題目は、世間の常識と調和していることを装ったゴマカシ、欺瞞にすぎず、登山や冒険とは本来、危険で自立的な行為をさすのだ。」

まともな支点が作れない状況でもロープを出し続け、落ちたら死ぬだろうなと分かっていながらも登っていく、全く別次元の人たち。

ただただ痛快、喝采した。




サミットガイド宮崎薫Office WEBSITE

はじめての登山からクライミングまで、基本から学べるアルパインスクール。認定山岳ガイドによる技術講習とガイディングを通じて、スタンダードな登山の技術と登山の楽しさをお伝えしてます。今より一歩先の登山へのチャレンジを、安全に分かりやすくサポートします。 日常を脱ぎ捨てて山へ冒険に出かけましょう!