小林よしのりは自身のブログの中で、本著を「文学と哲学から現代を分析する本」と書いている。
なぜそうしたかと言うと、ネットという「近代合理主義」の浸透によって、「感情の劣化」が進んでいるからだと。
新自由主義は貧富の差を拡大させ、二極化を進めた。そして、日本の強さを支えていた家族、地域社会、終身雇用を前提とした会社組織など伝統的共同体は姿を変え、ある意味、個が重視される社会に変質してきた。
その変質の是非は人によって考えが違うわけだが、小林よしのりは「保守」の立場としてそのことを良しとはしていない。
人と繋がる感覚や、自己承認欲求を満たすことを求めてSNSを使う人々は、小林よしのりに言わせると感情が劣化している。利便性や効率性のみを優先させることは堕落だと言う。
そのことは、近代合理主義の帰結でもあろう。しかし、国民が歴史の中で醸成してきた情緒や、一見、非合理に見える慣習を守るのが「保守」であると小林は言い、僕も賛同する。
イノベーションとシュムペーターの理論から、資本主義の非合理な真実を書いている章は面白い。イエス・キリストを変質させたキリスト教を徹底的に批判したニーチェの話や、エリザベス女王とサッチャー首相のオーディエンスの話も。
戦後すぐの堕落の例として砂川事件を上げ、米国の圧力に行政も司法も屈して出した判決が、その後の米国への従属と今も続く米軍基地問題を決定づけてしまった。
そして「保守」と「リベラル」について、本当の意味を歴史からあらためて説明している。本来の保守の意味からいうと、保守を名乗っている現政権や言論人は保守でもなんでもないと相変わらず手厳しい。
冒頭に出てくる太宰治の『トカトントン』を、僕は浪人生時代に読んだ。トカトントンが何度聞こえてきても、戦い続けていくことができるだろうか。
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