服部文祥さんは、「人が作った道がなければ登れないのなら、そういう山は登るべきじゃないし、自分の力で登ったことにはならないんじゃないか」とあるインタビュー記事で答えている。
「自分の力で山に登るというのが登山」だとすると、今の世で本当の登山をしている者がどれだけいるのだろう。
本著は、現代装備なしで古地図から昔の登山を追体験し、登山と人の本質な関係に迫るという服部さんらしい試み。
自分の力で、そこにある本来の自然・山を登るということに少しでも近付こうとすれば、昔の人々の強さが自然と浮き上がってくる。
そして、快適で楽で便利だということが、必ずしも幸せだとは限らないということを、あらためて思わされる。 快適で楽で便利だからこそ、逆に失っているものがどれだけ多くあるのだろう。
どの山行も刺激的で面白く、僕にとっての登山についても深く考えさせられた。
1.奥多摩・笹尾根縦走
木暮理太郎、田部重治という近代登山のパイオニアが、明治の終わり頃に日本初とも言える縦走形式の登山を試みた山域を、草履で着ゴザスタイルで歩く。
2.奥秩父・笛吹川東沢遡行
田部の名作「笛吹川を遡る」を辿り、100年前と同じ装備で塩山から徒歩でアプローチを開始して遡行。
3.若狭〜京都北山・小浜街道針畑越
若狭から京都まで腐りやすい鯖を一昼夜で運ばれたのは本当か、いわゆる鯖街道をたどる。
4.北アルプス・白馬岳主稜登攀
白馬岳主稜積雪期第2登を題材にした上田哲農のエッセイ「ある登攀」、そして雑誌岳人誕生のきっかけとなった白馬岳東面登山を振り返り、現代的なラインで登攀。
5.北アルプス・小川温泉〜鹿島槍ヶ岳
加賀藩の奥山廻りルートとされる、黒部川側から鹿島槍ヶ岳に至るルートを古地図から想像しながら、登攀装備なしで辿る。
6.北アルプス・鹿島槍ヶ岳北壁登攀〜八峰キレット縦走
年代物の液体燃料ストーブを使うことによって、山に火を持っていくということについて思索。
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