prime videoで2010年の映画『悪人』。観るのは2回目だけど、傑作だなという感想は色あせず。
この年のキネマ旬報日本映画ベスト・ワン、深津絵里はモントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞した。
人間の善悪は二元論では捉えきれない。善と悪は一人の人間の中にも常に混沌としてあり、善人は即ち悪人であり悪人は即ち善人であると僕は考える。
李相日監督は原作の重厚さを失わずに、そこを見事に表現している。
最初はこの作品の中で悪人は誰か、その中でも最も悪人なのは誰かという視点で誰もが観るのではないだろうか。
出会い系女を殺してしまった妻夫木聡か、彼を激情させてしまうほど酷い仕打ちをした女か、きっかけを作ったあのボンボン大学生か。お婆ちゃんを騙して金をむしり取ろうとした男か。
全員たしかにその一面だけ見れば悪人だろう。しかし映画が進むうちに、善悪二元論で捉える無意味さを感じるようになる。
それぞれの悪が描かれる中で、小さな善がまた際立って見える。そして無条件に子を思う親の心も。
映画の中で榎本明と樹木希林が演じる存在感は圧巻。そして、孤独で平凡な女を演じる深津絵里はあまりにも美しい。
孤独を感じながら田舎で暮らし続ける安売り紳士服の店員が、殺人犯と逃避行を繰り広げるようになるまで。そして秀逸の別れのシーン。
作品の中盤での柄本明の台詞が心に残り続ける。
「あんた、大切な人はおるね?その人の幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人たい。
おらん人間が多すぎるよ。
今の世の中大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、なんでもできると思い込む。自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。
失うものもなければ欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。
そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ。」
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