小説を一度書いてみようと思ったことがある人は、少なくないのではないだろうか。
かくいう僕自身も実際に少し書いてみたことがあるが、翌朝起きて読み直してみたら恥ずかしくて死にたくなった。
ラブレターと同じで夜中に書いたらダメである。
どんな人間だって、その人なりの波乱万丈な人生なわけで、それは一つの物語だ。しかも、日本人であれば日本語は書けるわけだから、どんな人間にも私小説みたいなものを書ける条件は整っていると言える。
しかもそれを出版社の文学賞に応募して、受賞したりさらには芥川賞なんか獲得した日には、一晩にして作家先生となりテレビなんかに出てウンチク垂れたりする有名人の仲間入りをして、さらには本が売れれば夢の印税生活に突入と、妄想は果てしなくなる。
そういうわけで、本の出版を夢見る人々は意外と多いわけだが、本そのものは読まれなくなってる出版不況の時代。
本著はそんな出版界を舞台にしたブラック・コメディになっていて、本を出したくてたまらない人達と「自費出版」の世界をテーマにしている。
「丸栄社」の敏腕編集長牛河原は、本の出版を夢見る人々に、出版費用を著者と出版社が折半する「ジョイント・プレス」という提案を持ちかけるのが主な仕事。
牛河原の巧みな話術に誘導され、彼らは自分もベストセラー作家の仲間入りができるかもしれないと話に飛びつくが、実際作った本はほとんど書店に並ばない。この辺の出版の裏事情が読んでると実に面白い。
何と言ってもこの本の一番の面白さは、本を出したくてたまらない人達の描き方。
スティーブ・ジョブズのような大物になりたいフリーターは、夢だけを語ってそのための努力は何もしてない。
しかし正社員で腰を落ち着けて働かないのは、いざ大きなチャンスが目の前にやってきたとき、会社に縛られてそのチャンスを逃したくないからだと言う。
もう腹がよじれるぐらい笑った。実際にこういう人間本当にいそう。
シニカルな作品だが、ラストで読者をいい気持にさせる。さすがは百田尚樹。
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